はじめに

こんなページを作ろうと思ったきっかけは僕が重度のヴィニール・ジャンキーであると言うのはもちろんのことではあるが、こんなに重要なアーティストのリイシューがほとんど満足にされていないということに憤りを感じたからだ。その時代に刹那的に登場したアーティストならいざ知らず、今ニール・イネスの置かれている状況はあんまりだと思う。
どちらかというとレコード・マニアというのはCDよりもアナログをひたすら愛するという変った(オタク)方面に属するのではあるが、僕にとってはイネスのレコードがCD化されていないのはどうも納得いかないのである。
CDが標準のフォーマットとなり、過去には超レアレティー級だったものが次々にリイシューされ、音楽ファンとしては大変嬉しい状況となっている。その反面一部のレコード・コレクターにとっては渋い顔になってしまうようなことかもしれない。僕としてはCD化されていてもアナログを求めてしまうのでほとんど気にしないし、同じ様な輩はいつまでもレコードを買いつづけるであろう。しかし、所詮アナログレコードはこと日本に於いてはマニアの物であり、新しいファンの増殖という事を考えればCD化されていないというのは致命的なことである。
ニール・イネスはマニアのための音楽ではないと思うし、CDとして気軽に求められないのは大問題だと思う。権利の問題とかいろいろ難しいことはあると思うけどなんとか現実的になってもらいたい物です。
それでも既に彼の音楽にノックアウトされている人のために、収集のガイドブック的な役割をしたいと思って作ったのがこのページです。コレクションの見せびらかしに見えてしまうでしょうが、本心からリイシューのきっかけになればと思っています。

多くの人がそうだと思うが、彼との最初の出会いは(もちろん、こちらから一方的なことではあるけれど)テレビで放映されたラトルズだった。
当時ギターをはじめたばかりのロック少年はパンクやキッス、エアロなどハードな音楽に夢中で、ビートルズにはまだ本格的に目覚めていなかった。もちろんビートルズ、ストーンズは当時から聴いていたけれど、ビートル・ストーリーを熟知している今とは違った目でラトルズを見たはずだ(事実、ジョージ・ハリスンがどこで出演したかわからなかったし)。
数年後、今度は遅れたビートル・マニアとなってから見たのがマジカル・ミステリー・トゥアー。最後に登場したバンドは気になったものの、ここではまだラトルズとボンゾズは僕の中ではつながっていない。
相変わらずパンクの魅力からは離れられず、日本では手に入り辛いレコードを捜し求めているうちにヴィニール・ジャンキーへの道を辿っていった僕だが、収集のための情報、資料が今ほど無く大変苦労したものだった。いわゆるディスコ・グラフィー物の本なども買い漁り、捜し求めるレコードのカタログ・ナンバーをメモした紙切れをいつでも持ち歩くという病気が発症したのもこの頃。

ビートルズ&アップル・マテリアル

完全にヴィニール・ジャンキーになってしまったと思われたそのとき、僕を更なる深みに導いていった本と出会ってしまった。手にした本は和久井光司著「ビートルズ&アップル・マテリアル」(1992年、ビー・エヌ・エヌ刊)
この書のおかげで僕の病気はかなり重いものとなっていったことは間違いない。それまでは欲しいレコードはたとえどこの国のレコードでも手にすることで喜びを感じたものだが、この本によってオリジナル盤という意味を知ってしまったのだ。これについてはこだわらない人には本当にナンセンスな行為であるのだが、それまでもパンクのアルバムなどでUS盤とUK盤との間で収録曲の違い、同じアルバムでもミックスの違いなどを体験してきてそのアーティストの国の物が純正のレコードなんて気持ちは既にあったように思う。しかし、もうどこにでも手に入るはずのビートルズのアルバム群のオリジナルを集めると言う行為は初めはわからなかった。彼らのアルバムはすべて東芝音工盤で持っていたし、あえて欲しいかなと思っていたのは「Let It Be」のボックスセットぐらいだったのではないか。モノラルとステレオでそれぞれ別にレコードが売られていたのは知っていたが、「ビートルズ大百科」(1983年CBSソニー出版)の記述によって僕も“高品位なステレオ”主義であったのだ。
その後ステレオ盤は決して“高品位”でないことを知る。決定的だったのは1993年10月号の「レコード・コレクター・マガジン」のサージェント・ペッパー特集。ここからモノラル盤蒐集の長い旅に出ることになってしまった。僕の東芝盤はみるみるイエロー・パーロフォンに替わっていったのである。その後のわが身の瀕死の状況までの悪化ぶりは言うまでも無い。
さて「ビートルズ&アップル・マテリアル」にはもう一つの顔があった。“ブリティッシュ・ビートニクス”と題されたパートにスキャフォルド、ボンゾズ、リバプールシーンなどが紹介され、更に“モンティー・パイソン”が独立したパートにて紹介されていた。後年著者の和久井氏自身が語っていたことによるとビートルズ本体よりもソロ作とかこちらの部分に力を入れたとのことである。僕はこの本によって完全にラトルズ、ボンゾズ、パイソンが一つに繋がったのである。ボンゾズ・ワールドに足を踏み入れた瞬間に僕は彼らの虜になってしまっていた。あのパンク・コレクターの僕が今やおかしなレコードのコレクターに変っていったのである。
初めて手にしたボンゾズ作品は月並みながら「History Of Bonzos」、そして「ラトルズ」。彼らの音楽を聞くのは本当に楽しかった、故にレコード探しにも大変熱が入っていったのだが・・・。少し前から海外の店や個人コレクターからレコードを買うことを覚え、日本で買うよりも安い値段で珍しい物を手に入れたりしていた。それらにボンゾズのレコードのウォント・リストを送ったりしていたのだが、彼らのレコードが出てくることはほとんど無かった。
そして自身を邪魔していたのがオリジナル盤主義。特にボンゾズの1st、2ndはブックレットが付いているとの情報を得ていたので困難を極めた。CDが出ていればとりあえず音源はCDでと考えていたのだが、「Cornology」のセットは当時はなかなか見つからなかったのである。

そんなときニール・イネスのCDが突然発売になった。彼のソロで入手困難とされた「How Sweet To Be An Idiot」のリイシューだ。
このアルバムは今でも僕のNO.1フェイヴァリットだ。もちろん彼の作品はどれも素晴らしのだけど。CD化されたそれはシングルの曲を含む形で編集され「Re-cycled Vinyl Blues」というタイトルで発表された。
この素敵な事件に僕は大変喜び、そしてこの後すぐやってくる大事件の予兆に感じられた。そう1995年には大事件が起こったのである。

(つづく)