グラストンベリー

トーントンでの週末、ティムフィオナ夫妻がドライブに連れて行ってくれることになった。日曜日なので友人のピートも一緒についてきてくれるという。行き先は毎年大きな野外ミュージック・フェスティバルが催されるので有名なグランストンベリー。もちろんこの時期は何も催されていないのでただの“丘”という感じだったが。ここは古くからアーサー王伝説の地、アヴァロンではないかとも言われ、町の中央には修道院があり、観光で訪れる人も多い。“丘”のてっぺんには聖ミカエル礼拝堂がそびえているのであった。しかし、こんなところにも中古レコード屋さんは在るものである。僕は彼らに連れてきてもらったことも忘れひたすら「エサ箱」を漁る…。傷だらけの盤ばかりだったが、ストーンズのオリジナル盤を見つけた。ラッキーである!
この日の午後にテレビ中継されるFAカップを見るため早めに家へ戻る。対戦カードはリバプールチェルシーピートはリバプール出身なので当然レッズを応援するが、なんとチェルシーが勝ってしまった。ピートはかなりおかんむりである。その後も僕のたどたどしい英語で彼らと語り、一緒に笑った。まさか初めての訪れた地でこんな気分を味わえるとは思っていなかった。本当にトーントンに来て良かった。

翌日の午後にロンドンへ向けて出発することになっている。ティムフィオナ夫妻は仕事があるので店でお別れ。この日は朝からピートが付き合ってくれた。彼は駅まで見送りにも来てくれ、トーントンでの最後の別れを交わした。しかし後年、彼は日本へ仕事を求めてやって来た。そして短期間だが我家の居候になるのである。Dear “Useless lazy sod” Pete…。

ティムフィオナピートと知り合えた僕は幸運だった。彼らがいたからこそ、その後再び英国へ行く動機が出来たし、彼らを通じて英国というものを深く知ることも出来た。英語の先生としてもスラングだらけの言葉使いを仕込んでくれて本当に感謝している!? 落ち込んだときに力になってくれたのも、笑い飛ばしてくれたのも彼らである。もしも初めての英国旅行で英国人に対して嫌な印象を持ってしまっていたら、僕の中の英国の憧れはその時点で終わっていただろう。そしてその後新たに知り合えたはずの人々を知らなかったはずだ。もちろんNeilと会えることも。

おのぼりさん

ロンドンへ向けての車中、最初のトラブルが勃発した。検札に来た車掌が切符を見て、これではダメだと言うのだ。やはり切符購入時のいやな予感が的中したようだ、“BATH SPA”と表示された切符は最初からおかしいと思ったのだ。しかしここで彼の言うなりになっていたらみすみす罰金を払わされるだけである。僕はブリティッシュ・レールを余計に儲けさせようとは思ってはいないのだ。そしてカタコト英語で購入時に起こった出来事を話し、インフォメーションで確認したが大丈夫だと言われたことなどを精一杯説明した。時には感情たっぷりで…。そうしたら車掌は渋々この件を不問としてくれたのだ! 納得はしてない様子だったが。奥の席のビジネスマンが僕の方を向いてサムアップしてくれたのが嬉しかった。そう、僕は英語で意志を貫いたのだ。
よく言われていることだが、海外で日本人旅行者は言葉に自身が無い理由からか、トラブルがあってもほとんどクレームをつけないようだ。面倒なことを避けてしまいたいという事だろうが、頑張ればなんとか意思はつうじるものだ。ロンドン周辺に出没するインチキ臭い募金強要に簡単にお金を払ってしまっているのは我々日本人だけのようだし、彼らのいいカモになっているかもしれない。言葉が喋れないことは恥ずかしいことじゃない、意思を伝えることは黙って微笑んでいるだけじゃ出来ない。勝手の違う外国では我々おのぼりさんはもっと気をつけなくてはいけないと思う…。

ロンドンのレコード屋さんはSOHO周辺、悪名たかいHanwayストリートに多数固まっている。その他にもレコード・コレクター誌の広告によるとポートベローカムデンの辺りにもあるようだ。インターネットの検索でお店のリストなど瞬時に調べられる今とは違い、当時の僕は雑誌の広告で一つ一つ住所を調べていくという作業を経てショップ・リストを作って行ったのでした。またしてもレコード屋回りがメインか?
ロンドン
を見て周ると言っても僕はいわゆる観光地であるバッキンガム宮殿などにはまるで興味が無いのである。東京へ観光するといっても二重橋とかには行かないでしょう?あっ、海外からの旅行者は行くかな…。僕にとってロンドンで訪れたかった所といえば「アビ−・ロード」「アップル・ビルディング」等々やはりビートルズゆかりのところばかりで、リバプール同様聖地巡礼といった具合だ。それとウォータルー・サンセットも見たい。
ロンドンAtoZも買ったし、明日からバリバリ回るぞ! あっ、やっぱり僕もおのぼりさんだった!!
(つづく)